勝負に関するテーマに対する藤井聡太の回答

我々は勝敗をあたかも唯一の「結果」のように捉え、そして「結果」に一喜一憂し、「結果」に振り回される。確かに「勝負」事について勝ち負けがひとつ重要な要素であることは疑いようもない。例えばトーナメント戦では、内容がどうあれ勝てば次の対局に進出できるし、負ければそこで終わりだ。

しかし、勝敗の記録のみを「結果」とみなすのは実は受け取り方のひとつである。もっとも重要なのは、実は内容なのである。そして、勝敗は内容の付随物に過ぎない。

勝敗の記録は客観的で、将棋界においてはひとつの物凄くわかりやすい指標だが、棋士がそこに必要以上にこだわる必要はない。なぜなら、史上初の記録を出したとして、周囲は沸き立つかもしれないが、それによって棋士自身が、「盤上に」藤井聡太の言うところの「新しい景色」を見ることはないからだ。

藤井聡太の言葉は、藤井聡太の言葉であるがゆえに、雲の上の人の言葉のようにも響く。しかし、実は普遍的な事実を語っているに過ぎない。「結果ばかり追い求めていると結果がでなかったときにモチベーションを維持するのが難しくなる」のは、どんなに弱いアマチュアにも当てはまる。ゆえに、藤井聡太の言葉は棋力に関わらず、将棋指しにとって、またあらゆる勝負の世界に生きる者にとって重要な意味を持っている。

もちろん、勝敗記録という客観的な動かしがたい事実に対し、そのように認識を改めることは非常に難しい。客観的で動かしがたい事実を否定するのは間違っている。どのようなものであれ、それをあるがままに受け入れた上で、それとは主観的な「新しい景色」を追う必要があるのだろう。