ポニョ雑感

別にジブリのファンでもないし、もののけ姫千と千尋ハウルの動く城もまともに見てない人ですが、何やら歌が中毒的だという話を聴いて興味をもって、予告編を見かけて以来、観たくてたまらなくなったこの映画を先日ようやく観にいけました。

超現実的?

この映画、一言でいえばとても「シュール」だ。ファンタジーというだけでなくて。観てると違和感を覚えるシーンが多過ぎる。登場人物の価値観、常識がよくわからない。車もあるし老人ホームもあるしスーパーもある。現代日本のどこかの海辺の町が舞台という前提で映画を観たくなるのだが、どうもそう思って観ていると混乱させられるシーンが多い。
宗介とポニョの出会いのシーンから、そんな前提は捨て去るべきだと気づくべきなのかもしれない。宗介がポニョを見て、人面魚だ、と気持ち悪がったりすれば、観客としてはその気持ちを非常によく理解できるし、同じ世界の感覚の持ち主だ、と視点を共有でき(少なくともその気になり)、安心できる。しかしごく当り前のようにそれを受け入れる宗介に、他の殆どの登場人物も、ポニョのことは「かわいい金魚」として自然に受け入れてしまうことに、観客は価値観の基準をどこに置けばよいのかわからなくなってしまう。
異常な天変地異の中、宗介が家を出て母親を探しに行くシーンがあるが、そこら辺りからいよいよ違和感が募り始める。そこで出会う人々は、あたかも晴れた休日のピクニックの最中でもあるかのように振舞うのだ。なぜそんなに平気な顔をしているのか?ファンタジーだから?いやいや。わけがわからない。赤ん坊のシーンで、赤ん坊が不自然にむずかったのは何故?それをまた奇妙な方法で突然あやしていったというのはどういうこと?そして男たちが大量の旗を掲げて漕いでいた、あのボートは何? どう見ても異様な光景。時代も不明。そういえばパンフレットにあの赤ん坊の母親は大正時代の女性だとあった。
観終わった直後は頭の上にはてなマークがいくつも浮かんだままで、到底「泣ける」とか「癒される」とか、そんな余裕はなかった。

不気味

この映画を観に行ったのは、話題のジブリ映画だということに加えて、魚のポニョがとても愛らしく感じられたからであって、どちらかというとその可愛さに釣られていったというのが大きい。魚に釣られてしまった。しかし、その目的さえ達せられたかどうかは微妙だ。何しろここに出てくるポニョ、可愛いというよりもむしろ不気味なクリーチャーである。
とりわけ、人間になりきっていない半人形態の不気味さは異常だ。そもそも人面魚である事実といい表情のない目玉といい、単純に可愛いとは言えない要素は最初からあったわけだが。
巨大な魚の背を異常な速さで駆けて、宗介を追いかけてくるポニョは、それが宗介に会いたいという強い気持ちの表れだということはわかっていても、残念なことにどう見ても怖い。というか、明らかに意図的にそのように描かれている。ジュラシックパークで恐竜に追いかけられているような、自分の命を狙う殺し屋に追いかけられているような、そんな怖さに近い。当の本人は無邪気な笑顔で手を振っていたりして、その笑顔自体は天使のように可愛らしかったりもするのだけど、余りにも背景とミスマッチである。

母子像

そんな風に謎と不気味さとがふんだんに盛り込まれた作品の中で、リサと宗介の母子像だけは、とても素直にストレートに描かれてたと思う。理想的な母子像というか。旦那との信号での会話とか、こういうシーンだけは安心して見ることができる。登場人物と観客の常識が合致する、貴重な一瞬。それにしても宗介、いい子過ぎます。パンフでも宗介が大人になったらどれだけ魅力的な男性になることか。と書かれていた方がいたが、まったくもって同意。
声優もだいたいよかった。これはいつも賛否両論なんだろうと思うけど、正直あまり声優によって左右される作品でもない気がしますw 所ジョージもよかった(キャラの雰囲気と合ってた気がする)。山口智子も同じく。山口智子というと、「スウィートホーム」を一番に思い出します。ただ、肝心のポニョの声優だけは気に入らない。子供とはいえ、子供過ぎる。宗介はかなりよかったのに。

ストーリー的な謎

なぜポニョは宗介をそこまで好きになった?そこを描く必要はなかったのか、敢えて描かなかったのか。宗介にしてもそう。魔法に驚かされたり、シンプルにかわいかったというのはあるにしても。
宗介は約束を守ったというが何か他にしたことは? 船で家を離れたことか?状況に流されていただけで、必然性に迫られて積極的に事態を変えようとしたというものがあったようにも思えない。あと、これからどうなる?というのは、別の物語なのかな。

その他

超映画批評であった「死を連想させる要素」というのは自分としては殆ど感じなかった。車椅子のおばあさん達の、映画後半の姿に反射的に死を感じた、というよりもむしろ故意犯的な表現にすら思えるのだけど、そこまで死を強調しているわけでもないし、実際死んでない。

観終わった後に、心に残ったシーンの一つは、ネタバレになるけれど、美しいデボン紀の海。悠々と道路の上を泳ぐ巨大な古代魚たち、そして、"空に浮かぶ船"。ラピュタで描かれた空の上の廃墟に通じるものを感じる。僕は海が好きで、波とかずっと眺めてて飽きない人ですが、この作品の中の海も好きですね。ただ、この海からは潮の香りは漂ってこないですけど。

素直に「面白い」とか「感動した」とか「癒される」とか「可愛い」とか、到底言えない。なんとも表現しがたい、言い難いこの作品だけど、一つ確かに言えることは、鑑賞してから2日経つけど、未だにこの映画が気になって、ずっと頭から離れないということ。
もう一度、観てみたいと思います。