「映画ハートキャッチプリキュア!花の都でファッションショー…ですか!?」感想

何かと高い評判を耳にしていたので、観たいみたいと思いつつ、常にレンタル中で観れなかったこの映画。ようやく先日借りられました。
新作だったので2泊しか借りられず、またその2日の間にハトプリvol.7からvol.11(6時間分くらい?)までを観なければならなかったにも関わらず、思わず4〜5回繰り返し見てしまう程強力な引力を持った映画でした。

「母親」としてのブロッサム、「父親」としてのサラマンダー

舞台は珍しく海外、しかもパリということで、スタッフが気合を入れて取材を行ったことがよくわかる作りです。僕はパリに行ったことがないですけど、パリ観光に行ったような錯覚を覚えさせる程に建物や風景が丁寧に、また美しく描かれており、オリヴィエと男爵のストーリーを華やかに、そして切なく彩っています。

この映画のメインキャラクターである「オリヴィエ」または「ルーガルー」。
彼に血の繋がった家族はいませんが、この映画は家族を描く物語だと思っています。サラマンダーは「父」。「母」はつぼみです*1
息子と父親との葛藤と対決。そんな息子に対する母の無償の愛。人類における普遍的なテーマでしょう。それだけに、舞台がパリで、狼男やプリキュアや砂漠の使徒が出てくるファンタジーに見える本作であっても、プリキュアを知らなかったとしても、世代や年代を問わず誰もが共感できるストーリーになっています。

ハートキャッチ本編では、萎れかけた心の花を媒介にして生み出されるデザトリアンを倒し、浄化することでその人の心の花を、また心の大樹を元気にしていくプリキュアですが、映画ではプリキュアとしてではなく、変身前の花咲つぼみ、来海えりか、明堂院いつき、月影ゆりの姿のままで、それぞれの素直な個性のままにオリヴィエに接し、一対一の対話を通じて少しずつオリヴィエの心を開いていくという構成です。ちなみに、オリヴィエもデザトリアン化されますが浄化に成功しても特に変化はないように見えます。

つぼみの無償の愛・つぼえりの友情

オリヴィエがサラマンダー男爵の元に戻ったとゆりから聞いて、思わずアパートを飛び出すつぼみ。
えりかはそんなつぼみを追いかけ、オリヴィエとの別離に溢れる涙を抑えきれない彼女を「おりゃーっ!」と抱きしめ、優しく言葉をかけます。地味ですが、つぼみの優しさとえりかの友情の強さをここまで描くシーンは他にありません。涙の描写も丁寧です。

満月の光を浴びたオリヴィエが狼男になって、理性を失い、モン・サン=ミッシェルを破壊し始めます。そこに駆けつけたブロッサムとマリンとの戦闘シーンは圧巻。狼男化したオリヴィエには人の言葉がもう届かない、と必死で彼を攻撃して止めようとするマリンに対し、ブロッサムはあくまで、彼が理性を失った狼ではなく、オリヴィエであることを信じ、彼に対するマリンの攻撃を再三身を挺して食い止めるのです。無償の愛を体現したブロッサムの姿がここに描かれています。
もちろん、一般にこの愛は報われません。報われないからこそ無償の愛なのです。
ブロッサムの行為が結果に繋がったのは偶然でしかありません。しかしそれだからこそ崇高なのですね。

オリヴィエとサラマンダーの出会い。オリヴィエの願い

オリヴィエとサラマンダーの出会いのシーンも、またこの映画の中で屈指の名シーン。

美しい銀髪と澄んだ眼を持つ、天使のような男の子が、モン・サン=ミシェルの大聖堂で大天使ミカエルに祈りを捧げていました。そんな彼の耳に、謎の声が響いてきます。
「願い事をかなえてやろう。もし俺を見つけることができたらな」
声の主を探して、男の子は聖堂内を歩き回り、ついに扉を開きます。巨体ながら痩せ衰えた、長髪の男が頬杖を突いてそこに座っていました。頬がこけ、ぼさぼさの髪、薄汚れた格好はまるで乞食のよう。想像していた大天使のイメージとはかけ離れていますが、疲れきった表情を浮かべる切れ長の眼、高い鼻と整った顔立ちは、かつての美青年の面影を留めていました。
「おじちゃんが大天使さま?」
不思議そうな顔をしてじっと男の顔を見つめる男の子。そんな彼の頭を優しく、親しげに叩きながら、男は語りかけます。
「まずは礼を言おう。俺の名前はサラマンダー。扉を開けてくれて助かったよ。お前、いい子だな。」
「うんっ!」
男の子は満面の笑顔で頷きました。サラマンダーは男の子の手をとって、扉の外に向かって歩いていきます。
「ねえ、お願い聞いてくれるんでしょ?」
嬉しそうにそう尋ねる男の子ですが、もちろん、サラマンダーに願い事を叶える力などありません。見つけたら願い事をかなえよう、といっていたのはあくまで口実に過ぎません。少々決まり悪そうに、サラマンダーは言いました。
「とりあえず、言うだけ言ってみろ」
その言葉を待ってたように、男の子は叫びます。
「あのね、僕パパとママが欲しい!」
「なんだ?そんなの、俺だってもってねえよ。」
サラマンダーは笑いながら言います。
「なんなら、一緒に探しにいくか?」
「うんっ!」
男の子は眼を輝かせて、頷きました。
そこから2人の旅が始まったのです。

参考動画(超ネタバレ):http://www.nicovideo.jp/watch/sm13967706

彼がこの時口にした、あまりにも無邪気で悲しい願い。
しかしそれは、この戦いを通じて成就していたということなのでしょう。

「花の都」

最後の戦いを終えたプリキュアを祝福するかのように、パリの街を色とりどりの花びらが舞います。
パリが花の都であると信じて、花を探していたつぼみ。そんな彼女の前に、「花の都」が姿を現したのです。

*1:父親として、彼に「Rougarou(ルーガルー、狼男)」という名前をつけたサラマンダー。彼にもう一つの名前「Olivier(オリヴィエ、金木犀)」をつけたのはつぼみでした。