某ハイブリッドカーのUIが微妙だった件

レンタカーで借りた車が人気のハイブリッドカーだった。確かに見た目は悪くないし、操作感も重厚感があり、かつ静か。ただレンタカーユーザーとしては、運転とは別のところで苛つく点が多かったのでメモしておく。

車のコンパネのUIなんてだいたいわかりづらいもので、そのくせなぜか車種ごとに微妙に違いがあり、レンタカーユーザー的には違う車種を借りるたびに逐一フォローするのが面倒くさいものである。何度も借りて一通りパターンを経験できたので慣れてきたが、その中でのこのUIはちょっとショックだった。

  1. エアコンのUI
    真夏の車内で熱風が延々出続けて、下手したら気を失うところだった。もしかして暖房入ってる?と思って、スマホで「エアコン ヒーター 区別」でネット検索したところ、公式マニュアルが出てきたが何もわからない。
    左に「PUSH A/C」右に「PUSH AUTO」というつまみがあるのだがこの関係がよくわからない。中央のディスプレイの表示と挙動から、左側のつまみは風量、右側のつまみは温度を設定するらしいということはわかったのだが、風量はともかく、温度が全く出てくる風の温度と一致していない。「AUTO」を押すと、適当な風量/温度に設定してくれる、ということなのでAUTOを押していたが何も変わらない。

    「新型ノートe-POWERのエアコンはパワフル?【後部座席でも快適か確認してみた】」https://tesdra.com/noteepower-aircon より引用
    もしかしたら、A/Cボタンを押さないと、AUTOボタンを押していてもAUTOは機能せず、単に送風に過ぎなくなるのかもしれない*1が、A/Cボタンを押さないと冷房にならないのに、右の温度つまみを回すと温度があたかも調整されているかのように表示されているとしたら、その表示は何の意味もないどころか、普通に「嘘」だ。温度はエアコンに従属した機能なのだから、エアコンがついていないのに温度が表示されるこの仕様は明らかにおかしい
    ついでに言うと、「AUTOボタン」と「温度つまみ」、「A/Cボタン」と「風量つまみ」それぞれの機能も独立しており、意味的にもほとんど関係ない。何の関係もないボタンとつまみをどうして一体化させたのだろうか?
    確かにエアコンのボタンが多過ぎるのは問題なのだが、それによって少しでもわかりにくくなったら本末転倒である。じゃあどうすればいいのか。エアコンの機能自体に進歩はないのであれば、過去のUIを真似ればよい。
  2. ウインカースイッチとライト点灯操作のコンフリクト
    ウインカースイッチが妙に固く、ウインカーを点灯させる際にライトのつまみが勝手に動いてしまう。AUTOに設定していたはずが、なぜか点灯になっており訝しんだが、どうやらウインカー操作の際にうっかりそうなってしまったということ。
    それにしてもこのレバーは固すぎるのでは?使い込んでいけば柔らかくなるもの?固いからスイッチを入れるのに力を入れる必要があるのだが、その際に回りやすいライトのスイッチが回ってしまう、というなんともお粗末な連鎖。
    ワンタッチターンシグナル」はかなり使い勝手がよかった。
  3. ドアミラー操作ボタンのミスリーディングなアイコン
    こんなクソどうでもいいところで戸惑ってしまった。下図参照。なぜ両方向の矢印にしなかったのか。

     

    ドアミラーは基本的に車が動いている時には常に開いていないといけないのに、それを手動で開かせている時点でおかしい。エンジンをつけたら勝手に開いてほしいし、エンジンを切ったら閉じてほしい(実際、ロックをかけたら勝手に閉まる車もある。ドアミラーを閉じる設計にする理由はここ参照)。もしかするとドアミラーを開いたら車庫に入れないとか、そういった環境を考慮したのかもしれないが、閉じたいときには手動で閉じる機能をつければいいだけの話だ。

  4. ハンドブレーキのON/OFFを示すランプの点灯/消灯のタイミングがワンテンポ遅れる。
    一般的なハンドブレーキレバーの名残で、引けばブレーキがON、押せばOFFになる。ハイブリッドカーはこういうタイプなのだろうか。
    ただ悪いのが、ハンドブレーキについてる表示灯の点灯が操作からワンテンポ遅れること。体感1秒くらい遅れてるような気がする。一瞬、ちゃんと利いてないのかと思って、逆方向にブレーキを引いてしまう。「操作したのに操作できていないように見える」仕様は非常にストレスフルだ。設計者は、インタフェースに関するフィードバックの重要性*2については知らないのかもしれない。物理のハンドブレーキであれば、上がっているか下がっているかは一目なので非常にわかりやすい。ブレーキを引いた時の手にかかる力も、ブレーキを外した時のスッと倒れる感じも、いかにもブレーキをかけた/外した感とリンクしていてわかりやすい。これは否応無しに発生する物理的なフィードバックだが、コンピュータ制御にするときに、このことを強く意識していないと容易に使いにくい、人間向きでない機械に変わってしまう。
    ちなみに、他社の車(OEM車ではない)にもほぼ同様の仕様のものがあった。部品が共通だったりするんだろうか。

     

ちなみに、後部座席も非常に狭く、チャイルドシートを載せるスペースもギリギリだった(他の車では運転席の真後ろに設置していたが、それだとスペースが足りなかったので、誰も乗らない助手席のシートを最大限前にずらしてその後ろに設置した)というのも、UIではないがマイナスポイントの一つ。

車に限らず家電製品にも言えることだが、UIの多少の酷さは相当酷いものでもない限り、何度か使っているうちによくも悪くも慣れてしまう、ということがある。つまり、購入者はこういったUIの劣悪さに対して比較的寛容であることが想像される。こういうエントリを書いていると、今にも

「ドアミラーのアイコン?そんなの一度使ったらわかるだろ?そんなところに力を入れても、売上は変わらないよ?」

という設計者の声が聞こえてくるようにも思える。一度使ったらわかるし、購入者にとってはそれは間違いないだろう。ただ、レンタカーユーザーにとってはその「一度使った」時の印象が全てだ。事実、自分としては上記体験(といっても、上記の4点に関する操作の都度不快な気持ちにはなったのだが)を通じて、このハイブリッドカーを設計したメーカーのUIについての知見や価値観が、ある程度わかってしまったような気持ちになった。

メリットである燃費の良さもガソリン価格の高騰のせいであまり享受できず(10リットル入れただけで2,000円は高い)。残念な車体験となってしまった。

*1:A/Cを押したところで、最初は熱風が出てくる不具合的な挙動もあるらしいが…

*2:cf. 例えば、第3回「ユーザへのフィードバック」 | 組み込み技術者のためのユーザビリティ基礎講座 | HCDコラム | HCD-Net