最近行ったところでどこが印象に残っているかと尋ねられて、確かに旅行的なところは箱根とか日光とか飯能とか千葉とかいろいろ行ったのだけど、自分としては首都高とその周辺の都内の道を走ったこととか、車をマニュアルモードで動かしてみたとか、韓国食材店に行ったこととか、棚をいくつも組み立てたこととか、初めて入ったイエローハットの店舗でカー用品を大量に購入したとか、車をコーティングしたとか、子供を連れて初めてのイオンに行って適当な店に入って食事したとか、美容室のマスターのバイクの話とか、お茶屋さんに行っていろいろ話したかと、そういった経験の印象は、決して中禅寺湖とその湖畔の紅葉の美しさとか、立木観音像の凄さとか、焼き栗の美味しさとか、箱根ターンパイクから見た富士山とか、ムーミンバレーパークでみたムーミンの家の再現とか、そういったものに決して劣らずに自分の中で強い印象を残したものだ。（ちなみに、ムーミンバレーパーク（湖を中心とした公園）は料金の高さとか食事環境の貧弱さなど、不満なことは少なくないものの、コケムスの展示はかなりよかった。やたら巨大な蜘蛛がそこかしこに生息していたのは面白かった。カメムシの大量発生もあって栄養豊富なのかもしれない（？）し、これも偶然ながら、ムーミンの世界観にそぐわないものではなかったと感じている。ムーミンとムーミンバレーパークについてはまたそのうち書こうと思う。）
最近の旅行は「観光」よりも「体験」に重点が置かれ始めていると思うが、逆に、日常における新しい体験というのは、ささやかなものであっても、ある意味、日常の中の旅行であるという見方もできる。車の運転が絡むとなおさらその意味が強まるかもしれない。また、毎日やってる「仕事」でも、新しい事象が発生してその対応をするーー例えば別の会社の担当者と新たに仕事をはじめる。海外のお客さんとメールのやりとりをする。 アンケートを作ってメルマガで送付する。友達に依頼されたウェブサイト作りに取り組む。そういったことは、あたかも今まで行ったことのない場所への「旅行」をしているかのように思えることがある。それらが全て出勤先のオフィスでさえなく、自宅の四畳半の仕事部屋で行われているということは逆説的だが、リモートワークを通じて逆に仕事における「新体験」の「新しさ」が際立っているのかもしれない。
また、XやYouTubeを始めとするウェブで得られる情報もまた同様である。 ここ数年で「おすすめ」タブが登場し、得られる情報量が激増したと感じている。また、YouTubeショートと、それがTwitter／Xに与えた影響。Xの動画も他のSNSのショート動画同様に、次々と動画が勝手にサジェストされて再生されるようになった。一本の動画をみて、上にフリックすると次の動画が始まるのだ。探す手間なく、文字通り浴びるように短い動画を観ることができるようになった。文字情報だけでも相当なインパクトがあると思うが、動画となるとさらに情報量と、受け手に与えるインパクトの大きさは拡大する。
相互に関連性の無い1分程度の動画は、いくら見続けたところで視聴者が体系立った知識を得られることはない。しかし、たとえばアーティストやスポーツや学問など、興味関心を惹かれてそこからウェブ検索にとどまらない新たな行動が生まれることはそう少なくはないだろう。動画を通じて未知の世界の姿を垣間見ることで、価値観が揺さぶられることもある。短い動画は知識を身につけることはできないが、心を動かすことはできる。動画は客観的な評価と視聴者にとっての重要性は無関係である。動画の制作に時間とコストがかかったとしても、それが視聴者の心を全く動かさなければ、彼にとってその動画は無価値だ。「啐啄の機」というが、視聴者自身のコンディションや環境に応じて、どの動画が彼に刺さるかが決まる。「客観的にはゴミ」の動画が、視聴者によっては人生を変えるきっかけにすらなり得るはずだ。
SNSが加速度的に進化して、我々の心を様々な形で効率的に揺さぶり始めている。SNSを見ることは、ただでさえ日常の中にいながらにして非日常への旅行をしているようなものだったが、ここ最近はますますその傾向を強めている。オフラインの日常の多様な経験は、「自らが責任を持って工夫して対応する」ことが必要とされることばかりで、それは受動的な観光よりも遥かにエキサイティングで、移動距離が0mであっても、200km移動して数日の非日常を暮らす旅行に負けるとも劣らないインパクトを持つものである。
それにしても、リアル旅行と、日常の中の新体験が同じように／もしくは後者の方がインパクトが強く感じられてしまうというのは、これは旅行への感受性が鈍麻しているのか、あるいは日常での感受性が鋭敏になっているのか、何やら矛盾したことが起こっていそうで気持ち悪い。日々受け止める情報量が多すぎて、何かがバグっているのかも…？しかし車で旅行すると、旅行の間での人との出会いや与えられる情報はかなり少なくなる気がする。移動時間の大半は大して風景もよくない高速道路を走るだけだし、小さい子供を連れて行くと、どうしても子供中心となり、旅先の情報を吸収する以上に子供の安全を確保するのに集中力を奪われてしまうので。
ともかく、ここ最近で起こったことが多過ぎて、一旦自分の中で整理してまとめる時間がほしい。いろいろな学びもあったはずなのに、それが時間の経過とともにいつのまにか失われていくのはとてももったいない。
