美術作品について

人間は、対象を見て理屈抜きに「きれい」とか「汚い」とか感じられる感性を備えている。これはおそらく先天的な能力だと思う。食べ物について「苦い」とか「酸っぱい」といった味を感じるのは毒を見分けるための感覚だという話を聞いた気がするが、美醜についても似たような生物学的な理由があるのかもしれない。

美術作品は人間のそうした先天的な感性の対象となるものだ。人間であれば美術作品を“鑑賞”できる。それを自覚してない人も少なくないかもしれないが。だからこそ卑近な飲食店の壁には額に入った絵がかけられているし、大きいビルや建造物にはモニュメントやオブジェや絵画が展示されている。もし一部の人にしかその価値がまったくわからないとすれば、そんなものを飾ったところで意味がない。

そういう意味で美術という分野は非常に公平で開かれていると思う。

ただ、美術作品はその美しさが感じにくい形で表されるものもある。そういうものは、一見してその価値が分かりにくい。これは別にわざとそうしているためではない。新しいものを受け入れるためには大きなエネルギーを要するが、美術作品についても同様だ。美術作品は新しい概念によって美を表現しているものが多いわけで、それを受け入れることは人によっては容易ではない。